そして友よ、静かに死ね

そして友よ、静かに死ね

昔は俳優でもあったオリビエ・マルシャル監督
彼が監督をした作品を私は初めて観るのだが、ちょっと調べてみると
どのタイトルも一貫していてかっこよい感じなので、ストーリーの傾向は
似ているような感じがした
「あるいは裏切りという名の犬」なんてタイトルがあったが
間違えても恋愛映画ではないだろう(と、思うが…)

本作は、2011年制作のフランス発ノワール映画である
1970年代のフランスに実在したギャングである
エドモン・ビダル(通称モモン)の晩年を描いた渋い作品だ

まず私的には、モモンを演じた主演のジェラール・ランバンが
渋くて、とびっきりカッコイイと思った
現在70歳だというから、撮影当時は61歳くらいだったが
年齢などまるで感じさせない引き締まった体からは、男の魅力が
全開といった感じである

撮影現場には、何とこの作品の主役のモデルとなった
エドモン本人がほぼ毎日顔を出したというが
こんなにカッコイイ役者が自分を演じてくれて、ご本人さぞかし嬉しく
思ったんじゃないかと想像したりする
(エドモン本人を見たことはないのであるが…)

一線を退き、静かに余生を楽しんでいた元ギャングのモモンだったが
ある日、かつて共に強盗事件を繰り返した親友セルジュが13年間の
逃亡生活の末に逮捕されたことを知る
セルジュは麻薬取引で仲間のゼルビブを裏切ったことも知った
最初は「自業自得だ」と見放すようなことを言っていたモモンだったが
やがていろいろなことが彼の頭の中を、よぎっていくのだった

セルジュとは疎遠になってしまっていたが、ガキの頃からの友達だった
ロマ族出身だったモモンは、子供のころいじめられていた
差別を受けていた自分を庇ってくれたのが、セルジュだった
それがきっかけで二人は仲良くなった
いつも一緒につるんでいて、お互いギャングになっても固い絆で結ばれていた
正に彼は、モモンの人生で「親友」と呼べる男だったのだ

引退したはずのモモンだったが、苦悩の末セルジュ脱獄の片棒を担ぐことを決めた
頑なにセルジュを守るモモンだったが、警察とセルビブの組織から追われ
かつての仲間達も殺害されていく
追い込まれるモモンは、最後に大きな決断をした

こうやって書いていても、惚れ惚れするようなストーリーだと思う
私的には、ちょっときれいにまとまり過ぎてる感はあった
それでもオリビエ・マルシャル監督作を、何本か観てみたくなった

ぶあいそうな手紙

ぶあいそうな手紙

2019年製作のブラジル映画
どんな作品かを全く知らずに鑑賞したのだが
個人的にはとても好きな作品だった
このような作品に偶然に出合うと、鑑賞前に余計な情報は
ないほうが良いと思えたりする
何も知識がないほうが感動も大きい

年齢を重ね、視力がほとんど失われかけているエルネスト
彼はアパートで一人暮らしをしていた
隣の部屋に住むハビエルは気の許せる友人で
日常生活の中、新聞や手紙などを読んでもらったりして
助けてもらっている

そんなエルネストのところにある日、一通の手紙が届く
手紙の差出人は、ウルグアイ時代の友人の妻からだった
エルネストは早くこの手紙の内容が知りたかったが
スペイン語で書かれたこの手紙を読んでくれる人は
なかなかいなかった

同じウルグアイ出身の隣人ハビエルは、スペイン語が読めるので
一度手紙を読ませかけたのだが、その時のエルネストを茶化したような態度が
彼は気に入らなかったので、こいつにだけは読ませたくないと固く誓うのだった
このシーンは、二人の老人がまるで小学生のようで、とても良いシーンだった

困っていた時、アパートの玄関でブラジル娘のビアと偶然知り合った
エルネストは彼女に手紙を読んでくれるように頼んだ
ビアが代読を引き受けてくれたことで、ようやく手紙の内容を知った
その手紙には友人である夫が亡くなったことを知らせることと同時に
自身の寂しい気持ちが綴られていた
エルネストはその手紙の返事の代筆をビアに頼んだ

それから手紙の代読と手紙の代筆のため、ビアがエルネストの部屋に
出入りするようになった
やがて家のないビアはエルネストの家に住むようになる
そんな二人の生活がこの作品の最大の見どころになっている

変わったことはまるで起きないし、古いアパートと手紙と老人といった
時代に取り残された感のあるありきたりのものしか出てこない
しかし、充分すぎるほどの幸福感と余韻を与えてくれた
やっぱり脚本と役者の力は凄いものだと改めて感じた

最後の社主

最後の社主

コロナ禍の中で発売された本である
発売された当時、話題作にはなっていたが、内容的なこともあり
メディア等で積極的に宣伝されることはなかった

巣ごもり生活は、本の販売に特需を与えてくれたようである
売り上げベストテンに入っているのは漫画が多いが、中には
「ペスト」など、なるほどと思える作品も売れた

電子書籍が幅をきかせている現在だが、この時期は紙の本も売れた
5月の売り上げの伸びは、2008年7月の調査開始以来最高の
伸び率だったという
当時、出口の見えない自宅待機の中で、時間の余裕ができたことが
紙で読書する人が増えたことに繋がったとすれば、全て紙の本を
読んでいる私にとってはうれしい

いよいよ、この本「最後の社主」だが、かなりおすすめの本である
その一番の理由は、一般人が通常では決して知ることのない内容が
書かれていることだ
朝日新聞社創業家の村山家
創業者・村山龍平の孫として生まれ、116万もの朝日新聞株を
保有した3代目(最後の)社主・村山美知子さんの伝記である

著者は樋田毅氏
朝日新聞社側から村山社主の元に秘書役として送り込まれた元事件記者
後に樋田氏は社主の信頼を得たことで、村山家の重要な行事にも
立ち会うことになる
当然、会社側と村山社主側の両方の情報に接しているので、ある意味最も
事の真相がわかるポジションにいた人である
その著者が、どちらかに大きく肩入れすることは最小限に抑えて事実を中心に
社主と新聞社に起きた事実を描いている
小さなニュアンスの違いは多少あるかもしれないが、書かれた内容で
核心である事実に関する部分については、間違いなく真実だろうと思える

全十二章からなる本であるが、最初は創業者の村山龍平さんの出身地や
村山美知子さんの幼少期についてから始まり
美知子社主が日本のクラッシック界にどれだけ尽力なさったかが伺える
私はフェスティバルホールにまつわる話が、とても興味深かった
章が進むにつれ、内容は朝日新聞社と社主に関する話になっていった

当然、樋田氏がこの本で最も言いたかったことは私にも伝わってきた
二度目になるが、著者は努めてどちらかに大きく肩入れすることを
抑えて書いている
しかし、後ろにいくにつれ、その抑えがきかなくなるほどの
著者の怒りを文章から感じることが出来る