ラスト・シャンハイ

ラスト・シャンハイ

時間があるときにアマゾンプライムでたくさんある映画の
タイトルを何となく眺めていて、この作品を見つけた
ポスターのチョウ・ユンファの姿が目に留まった時
素通り出来ない気持ちになった

書かれていた簡単な解説を読んでみると、この作品は2012年制作の
中国映画で、日本での劇場公開が2013年とクレジットされていた
私はその当時この作品を劇場で観ているが、7年の間に内容は
ほとんど忘れている
だから新鮮な気持ちで観ることができた

中国が制作となっているが、本土の作品というより
昔から香港で人気のある香港ノワール映画である
香港ノワール映画は、1986年制作の「男たちの挽歌」が始まりと言われ
その作品で主演だったのが、本作でも主演を務めているチョウ・ユンファである
私の中ではそのイメージが強く、頭の中がチョウ・ユンファ=香港ノワールと
なってしまっている
だから本作は、そのイメージ通りの作品ということになる

舞台は戦争の影響が色濃く残る1930~40年代の上海
地方の貧しい家庭に生まれ育った青年チェン・ダーチー
(青年期はホアン・シャオミン、中年期はチョウ・ユンファ)は
一旗揚げるために愛する女性ジーチウと別れ、上海へやってきた

ジーチウとは、自分が成功したら上海で再会しようと約束を交わしていた
やがてダーチーは、持ち前の頭の良さと度量の大きさで、上海の裏社会で
頭角を現していく
ジーチウとの約束も彼にとって大きな発奮材料であった
そしてついにダーチーは、上海裏社会のトップにまで登りつめた
その時ジーチウは京劇のトップ女優になっていた

このダーチーとジーチウの結ばれなかった恋を絡めて
戦争や闇社会を描いているのだが、尺の長く且つ内容の濃いストーリーを
シンプルで大変上手にまとめられていると思う
この手の映画の主人公は、やっぱりチョウ・ユンファがよく似合うことを
再確認できた

旅のつばくろ  沢木耕太郎

旅のつばくろ  沢木耕太郎

「深夜特急」シリーズがあまりにも有名な沢木さんだが
私は読んでない (どうしてなのか理由はわからないが…)
私が初めて沢木作品を読んだのは「敗れざる者たち」という作品だ
たぶん高校生の時に読んだと思うが、とても感動したことを
今でも鮮明に憶えている

それまでの私は、ほぼサクセスストーリーしか読んだことはなかった
この作品は敗れたものにスポットライトを当てているところが
とても斬新だったし、間違いなくもう一つの美学だと思えた
実際今、おっさんになって気付いたが、人生は負けの方が圧倒的に
多いということだ
この本は私に負けを教えてくれた最初の本だったように思う

そんな沢木さんの旅に関するエッセイを集めた本がこの本である
深夜特急のイメージから勝手に沢木さん=海外(混沌としたアジア)と
なりそうだが、この本は国内(東京より北)の旅について書かれてる

沢木さんのエッセイは読んでいて気持ち良い
言葉も難しくなく、簡潔なのだがユーモアも持ち合わせている
私が最も見習いたくなる文章である
人間は年齢とともに風貌、文章に生き様が表れるというが
沢木さんを見ていると本当にその通りだと思う

掲載されている短編のどれもがサクッと読めて余韻の残る作品であるが
たまたま昨日まで天体について書いていたので、この本の中で印象深かった
「一瞬と一瞬」という作品の一部を紹介したい

ある天文台で研究しているという男性の言った言葉であるが
「UFOは存在するか?」という問いに関連した回答の言葉であった

『宇宙が現れて百四十億年、地球が生まれて四十数億年、そこに現代人に
近い人類が登場したのが二十万年前。百四十億年を一日とすると、二十万年は
一・二秒。つまり、知的生命体としての人間が存在している期間というのは、
永い宇宙の歴史の中ではほとんど一瞬に過ぎないのだ。 以下略』

もしこのスケールでものを考えられたら、今までと答えが
変わってきそうだと思った

カセットテープ・ダイアリーズ

カセットテープ・ダイアリーズ

2019年制作のイギリス映画
実話を基にした青春音楽ムービーである
タイトルになっている懐かしい言葉である「カセットテープ」
今では死語に近いこの言葉が、時代を表わしているように
この作品は1980年代のイギリスにある田舎町ルートンが
舞台になっている話である

この町に住むパキスタン移民の少年ジャベドが主人公である
移民に対する人種差別が強い当時のイギリスで、パキスタン人の受ける
差別は相当の忍耐が必要なものだったことが映画の中からだけでも伺える
それに加え、ムスリムのパキスタン人家族の慣習が彼を常に抑圧していた
近所に住む同年代のイギリス人の友人のように、羽目を外して女の子たちと
遊ぶことなど厳格な父親の手前、決して許されることではなかった

そのためかジャベドは内向的で、自分の意見を外に向かって
はっきり言うことがいつも出来ずにいた
もともと文才があった彼は、その内向的な趣味である文章を
書くことだけが、唯一救いのような日々を送る毎日を送っていた

その毎日を変えたきっかけが、ブルース・スプリングスティーンの
音楽との出会いだった
彼の音楽は、それまでのジャベドのすべてを変えてしまうほどの
大きな影響を彼に与えたのだった
ジャベドが、チェックのシャツの袖を切った時は思わず笑ってしまった
それは、私の中のスプリングスティーンのイメージそのものだったからである

当時のイギリスではパンクが去り、ニューウェイブと呼ばれるおしゃれな
音楽が全盛期だった
悪い言い方をすれば、チャラチャラした音楽と言えるかもしれない
しかし、ジャベドはそんな音楽を楽しむ余裕がなかった
彼が欲していた音楽は自身の代弁者のような音楽、身の周りに近いところの
怒りや喜びや希望や愛を歌う音楽だったのだ

心のよりどころとなる音楽に出会い、彼の変わっていく様が
描かれているのだが、中盤以降は徐々に単調になっていった
しかし、この作品は私の個人的評価に比べ、世の中的には
大変高いものになっているようだ
男性客の中には何と涙腺を緩ませるものも多いのだという
色々な境遇の人がいるから理解できないことではないが、私には意外だった

それでもブルース・スプリングスティーンの名曲を久々に大音量で
聴くことが出来て、ちょっとタイムスリップ気分を味わえたようで懐かしかった