誘拐捜査

誘拐捜査

2015年の中国映画である
日本では劇場未公開の作品で2017年にWOWOWで放送され
同年にDVD化された
2004年に実際に起きた俳優ウー・ルオプー誘拐事件を
モデルとした作品である

この事件で実際に誘拐されてしまった俳優ウー・ルオプーが
本作に出演している
しかも、誘拐犯を追い詰める警察役で出演しているところに
何とも言いようのないユーモアを感じる

アマゾンプライムで観たのだが、ポスターに皺くちゃの
アンディ・ラウが載ってなければ、本作を観ることはなかったと思う
私の場合、マイナーな作品はレビューが飛びぬけて高いか、誰もが知っている
メジャーな俳優でも出演してないとなかなか観る気にはならない

その指標にするメジャーな俳優で最も多い俳優がロバート・デニーロである
誰もが知っている大俳優だと思うが、彼は本当に地味な作品にも出演している
彼の写真だけが指標となり、これまで何本のマイナー映画を観たことか
そういう意味でも彼は唯一無二のすごい俳優だと思う

話はかなり脱線したが、戻したいと思う
この作品は一切の無駄をそぎ落とした作品だと思う
始まりは犯人が取り締まりを受けているシーンだが、まもなく
映画の中でも有名な映画俳優のアンディ・ラウが誘拐される
そこから彼が解放されるラストまでずっと誘拐されたシーンが続く
もはや説明不要なほどシンプルな作品だが、すごく引き込まれる作品である

ほぼ誘拐されている状態のシーンであるので、長いセリフはないし
セリフ自体も少ない
そして派手なアクションなども全くない
その中で観る側を引き込むには、それ相当の演技力が必要だと
気付かせてくれるような作品だ

誘拐されたアンディ・ラウは本当に誘拐されているようだったし
誘拐組織のリーダー 張華(ジャン・ホア)を演じたワン・チエンユエンも
凶器に満ちたつかみどころのない犯人を熱演していた
少し中国の警察の対応があまりに紳士的過ぎて嘘くささを感じたが
きっと映画ということで理想の警察が描かれているのだと思う
最近ニュースで見る香港の警察とは明らかに違っている

日本劇場未公開作品と思えないような出来の作品だと思った

五年の梅  乙川優三郎

五年の梅  乙川優三郎

乙川さんの作品を初めて読んだのは10年ほど前になる
その時読んだ作品は、直木賞受賞作の「生きる」であった
「生きる」を読んだ時の感動は凄いもので、これまでに数回しか
味わったことのないような大変大きなものであったことを
今でもはっきりと思い出す

その時受けた感動があまりにも大きかったので
当然だがその後、乙川作品を現代物、時代物問わず何冊か読んでみた
その時、それらすべてが真摯に且つ丁寧に取り組まれた作品であることを
改めて感じさせたられた

「生きる」もそうであったのだが、乙川さんの作品の中では
個人的には時代物のほうが好きである
その時代に生きる名もなき貧しい町民にスポットを当てた作品が
多いのだが、巧みな心理描写ときれいな文体からそれら町民の
気持ちが伝わってくるようである

この作品も時代物で、やはり名もなき町民を主人公にしている
さらに言えば、もう若くない年齢の女性にスポットを当てた作品である
どの女性も辛く耐えがたい人生を歩いてきた己の過去を振り払う決断をし
自己を開放する様が色々なタイプの物語に落とし込まれている
この作品は2001年の山本周五郎賞受賞作である

全5編の短編に登場するそれぞれの女性は皆、人生の後半になってから
その後の人生がまるで変わるような決断をする
そしてその後は、上手くいった者もいれば必ずしもそうでない者もいる
しかし、その決断を後悔する様子はなく、失敗に終わっても
決して悲壮感はなく、どこか清々しさを感じられる所に救われる
丁寧に心理描写された文章からは、そんな繊細な気持ちの変化までもが
読み手に伝わってきた

5編の中では「小田原鰹」、「蟹」、「五年の梅」が特に好きだった
最後に収められた表題作「五年の梅」は読後に大きな余韻が残る作品だった

ファヒム  パリが見た奇跡

ファヒム  パリが見た奇跡

2019年製作のフランス映画で、実話をもとにしたヒューマンドラマ
世界中で人気の高いチェスを題材とした作品である

大変失礼であるが、この手の作品は実話を基にしているので
ある程度ストーリーの先は、観る側に解られてしまっている
だから、悪い意味で安心されてしまうところがあり、感動も
予定調和で終わってしまうことが多い
この作品も予告編で、ほぼ物語の全容が解ってしまう内容だった

しかし、そんなことはわかっていても私を含め多くの人が
このようなヒューマンドラマが大好きである
そして最後には予定調和でも作りが良い作品の場合は、まんまと
感動させられてしまい、観てよかったと思うことになる

特に何故かフランスの作品を観る機会が多いのだが、キャストが
凝っている作品が多いと思う
障害者やゲイ、難民、黒人など弱い立場の人間を物語の主要部に
登場させることによって、未来の社会に希望を持たせるような
ハッピーエンドのストーリーを作り上げる
そこにメッセージ性を感じる作品になっているような気が私はする

バングラデシュで天才チェス少年として有名だったファヒムは
8歳の時に父親とともに家族を残し、パリに移り住む
移り住むといっても食べる、住む、働く予定など全くない
何も当てのない政治難民としてパリに着いたといったものだった

パリに来た目的は、フランスでもっとも優秀なチェスのコーチの
1人であるシルヴァンに指導を受けるためだった
やがて難民センターのようなところに住まわせてもらいながら
シルヴァンの指導するチェスクラブに通い始めるのだった
指導料を支払うお金のないファヒムだが、何故かチェスクラブで
指導を受けることが許された
そのあたりは本編では軽く飛ばされていたが、たぶん他の生徒に比べファヒムは
格段にチェスは強かったので、日本でいう特待生扱いということだったと思う

そんなファヒムが様々な困難と闘いながらフランス国内のチェスチャンピオンに
なっていく様が実に解りやすく描かれている
シルヴァンをはじめチェスクラブの仲間も、とてもいい生徒であった
さらにチェスクラブの事務を取り仕切るマチルドも面倒見のよいおばさんだった
最後はこのマチルドが奇跡を起こしてくれた
私にはファヒムの見せる笑顔が、とても印象的な作品だった