ラストナイト  薬丸岳

ラストナイト  薬丸岳

これまで何冊か薬丸さんの作品を読んだことがある
私の読んだすべての本は、罪について様々な角度から表現した作品だった
罪を犯した犯人の置かれていた状況の厳しさや
罪を許すことや犯罪者と普通に接していくことの難しさなど
白黒つけられないような重いテーマについて書かれた秀作である

流石に一冊読んだ直後は軽い作品でなく、心に重く響く作品なので
しばらくは読まなくていいかと思ったりするのだが、1年も経たないうちに
また別の薬丸作品を読んでみたいと思うようになってくる
悪い意味ではなく、一度体験するとクセになるような作品であるのかもしれない
(少なくとも間違いなく私にとっては…)

この作品もひとりの犯罪者にスポットを当てた作品である
その男と関わりのある数人が語り部となり、その人物の名前が付けられた
各章を読んでいくと、犯罪者の目的や思いなどの全体像や
本当の意味での男の人物像が浮かび上がってくる構成となっている

薬丸さんの作品には、この構成で書かれた作品は少なくないのだが
序盤は???な個所も読み進めるうちに、あれよあれよと解明されていく
そしてすべてが解った最後に、大きな衝撃と感動を与えてくれるのだ
このあたりの構成も実に巧妙で意外性があって、いつも私は驚かされる

主人公は片桐達夫、五十九歳
顔中に豹柄の刺青がびっしりと彫られ、左手は義手
傷害事件を起こして服役して以来、三十二年の間に誘拐事件を三回
強盗を一回起こし、刑務所を出たり入ったりの生活を送る男である
この男の胸に秘めたとてつもなく強い思いとは?

出版社の紹介文がおよそこんな感じだったのだが、ここに書かれた
片桐の特徴や犯罪歴全てが、彼の強い思いを実行するために
必要なものであったことが、最後に理解できる
ストーリーは無駄なく、すべてきれいに繋がるのだ
そして片桐の思いの強さを知ることで、大きな驚きと深い感動と
余韻を体験することになる

上海グランド

上海グランド

緊急事態宣言の期間、県下の映画館は全て閉館していた
街の機能も遊びに関しては、ほぼ停止状態になった
ほとんどの人が必然的に家に居ることが多くなったこともあって
動画視聴サービスを利用する人が激増したという

私も同じで、この期間に結構たくさんの作品を視聴した
自分でもよくわからないのだが、なぜかアクションやスパイものが多かった
そしてもう一つ多かったのが香港映画であった
映画館では最近観た「淪落の人」より前は憶えてないほど香港映画を観てなかった
昔よく観た割とストーリー性のあるギャングものやノワールものが
無意識のうちに観たくなったのかもしれない

この作品は1996年製作である
80年香港で大人気となり、主演のチョウ・ユンファの出世作となった
TVシリーズ「上海灘」の映画化作品である
そしてこの作品の主演は、ホイを演じたレスリー・チャンと
リクを演じたアンディ・ラウという香港映画を観る人にとっては
知らないものはいないと思われる人気俳優二人である

観終わって感じたことは、この作品は良い意味で古臭い
別の言い方をすると、手垢のついたような普遍的な物語である
しかし、そんな物語の中に友情、恋愛、野望、復讐、死までもが
無理なくバランスよく詰め込まれている
97分という短い尺の中に、よくこれほどたくさんのものを洗練し
表現できるものだと感心してしまう
もちろんだが、主役をはじめとする各キャストの演技が良いことも
わかりやすさや観やすさに繋がっている

ここまできてやっとあらすじだが
舞台は日本が満州国を建国し、台湾を自治していた1930年代の上海
瀕死のホイはリクに命を助けられ、ホイの家にかくまわれた
やがて二人には友情が芽生え、コンビを組み暗黒街でのし上がっていった
全てが順風満帆に見えたが、やがて二人の友情にヒビが入り始めていく

こんな感じのストーリーである
私は個人的に1本の映画の中に比較的長い時間軸が
上手に描かれた作品が好きなのだが、この作品は正にそんな1本だった

15年後のラブソング

15年後のラブソング

イギリスの人気作家、脚本家であるニック・ホーンビィの
同名小説の実写映画化となる作品
この作品が特に気になっていたわけではないのだが、あまり重くない映画に
思えたし、時間も90分前後と手頃な感じだったので観てみることにした
映画館に着いたときに、待ち時間が最も短い映画がこの作品だったことが
本当は第一の理由だと思うけれど…

この作品のように、ある程度年を重ねた男女の恋愛映画は、人により白黒が
より明確に出る作品だと思う
白黒とはその作品の評価のことで、白が良い黒が良くないという意味だ
明確とは、よいと思う作品かどうでもよい作品かが、はっきり分かれるということだ

若者が主人公の恋愛映画では、予想のしない展開となったり
最後は理解不能な結末だったりする映画がたくさんある
そうなると人によりかなり評価は分かれる
更には、評価以前に自分がこの作品が良いと思うか?よくないと思うか?の
判断すらよくわからない作品だってある
しかし、熟年の恋愛映画にはそれはない
そしてすべて大まかな一般的常識の範囲内におさまるような作品になっている

この作品もそんな作品で、ありきたりだった日常生活に
たったひとつ起こった変化が、その後の彼女の人生を
大きく変えてしまったという中年女性の話である

博物館で働く30代後半の女性アニーは、長年一緒に暮らす腐れ縁の恋人
ダンカンと平穏な毎日を送っていた
そんなある日、彼女のもとに1通のメールが届く
送り主はダンカンが心酔するミュージシャンで、90年代に突然表舞台から
姿を消したタッカー・クロウだった
アニーはタッカー・クロウと関わることで自分の人生の在り方や
これからについてを考え、人生を大きく変えていくのだった

このようなストーリーだ
あまり大きな波もないので、無理なストーリーや展開にはなってない
そしてダンカンを演じたクリス・オダウドとタッカー・クロウを演じた
イーサン・ホークが演技で実にいい味を出している
特にダンカンのキャラクターは実に面白い(面白くしようとしてないけれど
そこがまた面白いのだ)

サラッとして観やすい作品だったが、私にはどうもアニーに好感が持てなかった
自分のせいではなく、人のせいでこれまでの人生が、つまらない無駄な
ものだったみたいに考えているように思えてしかたなかった