淪落(りんらく)の人

淪落(りんらく)の人

淪落… 私には言い慣れなく、聞きなれない言葉だった
調べてみると、落ちぶれて身をもちくずすことと出てきた

不慮の事故で半身不随となり、車いすの人生に絶望した中年男性と
家族のために夢を諦めたフィリピンからの出稼ぎ家政婦の
交流を描いたヒューマンドラマである

物語は家政婦が中年男の住む公団の近くのバス停に
降りるところから始まる
このバス停はラストシーンに繋がる重要な場所となっていた
その後の内容は、よくある展開だと言えばそれまでだが
最初は意思疎通が上手くいかずに、互いにちぐはぐに見えた
しかし、日々を暮らしていく間に2人の間に強固な信頼と
思いやりが芽生えていくのだった

このような内容の名作は少なくないのだが、それぞれ少しずつ
違うので観てしまうし、最後は決まって涙を流すのだけど…

この中年男性をアンソニー・ウォンが演じている
私はアクションやノワール作品でしか知らなかった彼が
この役をどのように演じているかが、最初は楽しみだった
観終わった時に感じたことは、素晴らしい普通さと
それでも目を離せない存在感が絶妙に表現されていると思った

実は彼、14年に香港で起きた民主化要求運動「雨傘革命」への
支持を表明したことで、中国市場から仕事を干された状態が続いている
それなのにこの作品には、何とノーギャラで出演したという
インタビューで彼は「この映画は低予算で、政府の助成金を
受けて作られている。私の求めるギャラが多過ぎると払ってもらえない。
かといって、少なければ正直、僕も嫌だった。それならいっそのこと、
ノーギャラの方がいいんじゃないかと思った。」と答えている

そして昨年秋から始まった香港の反政府デモについても支持を
表明し、次のように話している
「日本でいう『カクゴ(覚悟)』。現実は決して明るくないし、
残酷な現実も目の当たりにしている。覚悟はしっかり持っていたほうが
いいと思う。香港の未来は、香港人の手にゆだねられている。」

役者としての存在感と、この立ち位置の潔さは繋がっていると思えた

小説の散歩みち    池波正太郎

小説の散歩みち    池波正太郎

池波正太郎といえば鬼平犯科帳などの時代物で有名な作家だ
恐らく多くの人は時代物のイメージが強いと思う
しかし、私の場合は、どちらかというと時代物以外の本を
たくさん読んでいるためかエッセイや映画などを書いた作品の
イメージのほうがどうも強い
そんな中で特に食べ物についてのエッセイが面白くて
そして、美味そうで好きである

以前、馴染の居酒屋で偶然会ったあるお客さんと
池波正太郎の食べ物について書かれたエッセイの話で
盛り上がったことを思い出す
このおじさんは、私などよりずっとコアなマニアで
池波さんのエッセイに出てくるお店で現存しているところを
実際に巡る旅をしていると言っていた
実にうらやましい話だったので、よく憶えている出来事だ

この本もそんなエッセイがたくさん詰まった作品である
時代物の大家といわれた池波さんの私生活や少年時代の話
さらには、下積み時代の話や自身の作品が誕生するきっかけとなった話
そしてもちろん食べ物や生き方についてなど
本当に広範囲について書かれている
リラックスした話が多いのだが、その文章を読んでいくと
池波正太郎の信念のようなものが浮かび上がってくるような感じがする
そして人間の器の大きさも感じられる

私はもう一つ勉強させてもらっているのは
エッセイのような短文の書き方である
どうしたらわかりやすくて、気の利いていた文章が書けるか?
を気にして読むようにしているのだが
当たり前だと思うが、いつまでたっても池波さんの文章のようには
ならないのである

 

仁義なき戦い 頂上作戦

仁義なき戦い    頂上作戦

先日ショーケンについて3冊の本を基にブログを書いたのだが
俳優としての代表作となるテレビドラマ「傷だらけの天使」が
放送開始となったのが1974年(昭和49年)である
ちょうど同じ年にこの作品も上映された

監督はヤクザ映画界のレジェンドである深作欣二であるが
ほぼこの時期に「傷だらけの天使」も何本か監督を務めていた
そんなことを考えながらアマゾンプライムのリストを
ボーっと見ていたら、レビュー星が4つ半とかなり高いこともあり
急にこの作品を観たくなった次第である

本作は、多くのシリーズがある「仁義なき戦い」シリーズの第4作目で
これまでのシリーズと同じで、監督 深作欣二×脚本 笠原和夫の
鉄板タッグで制作されている
当時この作品は3億300万円の配給収入を記録し
1974年の邦画配給収入ランキングの第10位となっている
この手の映画がそんなにヒットするとは凄いことだと思う
時代を感じずにはいられない

物語はいつものヤクザ映画なのだが、終盤に抗争シーンは
少なく、ちょっと違った終わり方をする
人によっては不満に感じるかもしれないが、私は一般のヤクザ映画とは
違い、この終わり方が深作さんの突出した表現力だと思う

そのシーン、敵対していた広能(菅原文太)と武田(小林旭)が
粉雪の吹き込む裁判所の廊下で再会する
自分たちの刑に比べ、親分たちの刑がかなり短いことを武田に
聞かされた広能は、大きな虚無感に包まれ、自分の時代が
終わったことを思い知らされるのだった
そして広能と同じく、前線の矢面で戦っていた武田も同じことを思うのだった
ここはとても哀愁があり、印象的なシーンであった

この二人の存在感が特別際立つ作品だが、キャラクター的に超適役な金子信雄さんや
加藤武さんなどは、間違いない仕事をしている
そして梅宮辰夫、松方弘樹、山城新伍、室田日出男、夏八木勲など
後のテレビや映画で大活躍した名俳優がたくさん登場している贅沢すぎる作品なのだ

只、そのほとんどがお亡くなりになられていることにも
時代の流れを感じずにはいられなかった