下町やぶさか診療所  池永陽

下町やぶさか診療所   池永陽

池永さんの本は初めて読むのだが、この本は本当に
読みやすく、そして楽しめた
舞台は浅草にある小さな診療所である
ここの主である名物医師である真野麟太郎と、この診療所を
訪れる患者とのやりとりが物語になっている

7章に分けられていてそれぞれが独立した話なのだが
1章で出てくる女子高校生は、この診療所に住んでしまうので
最後まで登場する、言わばこの物語の準主役である

診療所が舞台となっているが、医療技術で病気を
治すことが話の主ではない
どちらかというと、こころの病に真野麟太郎が向き合っていく
そして最終的に完治はしないのだが、真野の診察を何度か
受けることにより、患者は皆少しだけ楽になっていく
どのストーリーも晴れ晴れするようなラストには
なっていないのだが、実に人間味のある終わり方になっている
それなのに、しんみりはせず、むしろ暖かい気分になる

この小説、ストーリーも面白いのであるがレギュラーの登場人物が
個性的でとても魅力的である
奥さんに先立たれた太った初老のおせっかい医師の麟太郎
元ヤンキーで武闘派だが、容姿は可愛い女子高校生の麻世
麟太郎の息子で、大学病院に勤務する医者の潤一は
イケメンで優秀だが、ちょっとズレている
そして麟太郎が昼はランチに、夜は酒を飲みにと足しげく通う
喫茶スナック「田園」の年齢不詳の美人ママである夏希
皆キャラが立っていて、とてもいい味を出している

私はこの作品を読んでいる間中、頭の中にそれぞれのシーンの
映像がはっきりと浮かんできた
このイメージし易さは、あまり感じたことのないほどである
勝手な予想だが、後に映像化されるかもしれない
そして小説も続編が出来そうな終わり方だったので、是非続編を
期待している

ホテル・ムンバイ

ホテル・ムンバイ

この作品も昨日の「カーライル」同様に、高級ホテルを
テーマにした作品である
とはいっても本作は、豪華ホテルの従業員とゲストを追った
ため息の出るようなドキュメンタリー作品である「カーライル」とは
まるで違うタイプの作品である

本作は、カーライルと同じような歴史と伝統ある格式高いホテルが
テロリストに占領されるといった非常事態を描いている作品である
2008年11月26日~29日にインドのタージマハルパレスホテルで
実際に起きたテロを描いた史実に基づいた作品である
オーストラリア・アメリカ・インドの合作で2018年制作なので
事件後10年を経て映画化されたことになる
監督は、本作が長編初監督作のオーストラリア出身アンソニー・マラス

最近の出来事であるのに、私の記憶にはこの事件の詳細は残ってない
大きな出来事が多すぎて覚えてられないと、言い訳を言いたくもなるのだが
この作品を観ると、こんな大事件をよく忘れられるものだと
自身の記憶力に文句を言いたくなる思いだった

インドを代表する五つ星ホテルがテロリストによって占拠された
ホテルには500人以上の宿泊客と従業員が居たが
無差別に機関銃を発射するテロリスト達なので
人質というより、見つからないように隠れていないと
誰もが標的になってしまう
観ている私も取り残され隠れている一人になったような緊張感がある

作品の冒頭、ボートで川からテロリストがムンバイにやってくる
それから一体何人が殺されたかわからないが、そんなシーンがほぼラストまで
続くので、人が殺されることに麻痺し、慣れてしまう
この殺人マシーンのような描き方が、この事件の悲惨さを物語っていた

ようやくデリーから特殊部隊が到着し、事件が解決に動き始めた
恐らく多くの鑑賞者が感じたように、私も「特殊部隊が遅すぎるだろ!」と
思いながら、最後の脱出時にテロリストの銃弾を受けながらも
外に向かって一気に脱出していく従業員とゲストたちのシーンが
大変印象深かった

ここまで生き延びてこれたのに、出口がすぐそこに迫った
最後の最後に銃弾に倒れてしまう人たちを見ていると
運というものを感じずにはいられなかった

カーライル  ニューヨークが恋したホテル

カーライル  ニューヨークが恋したホテル

ニューヨークにある伝説の5つ星ホテルであるカーライルの魅力に
迫るドキュメンタリーである
かろうじで名前だけは知っていたが、安い部屋でも
一泊40万円以上するという超高級ホテルなので、私には一生縁がない
それだからこそ、この評判の高級ホテルの一面をせめて映画で見たくなった

映画はこのホテルで働く人々の仕事ぶりや、ゲストにまつわるエピソードと
このホテルを愛してやまないセレブたちの、ホテルへの賞賛コメントで構成されていた
亡くなった有名人の実話は話していたが、口が堅くて有名な
このホテルの従業員たちは、ゲストのプライベートについては
ほとんど明確には答えてくれてなかった
映画の中では、あえてプライベートを質問する司会者をのらりくらりと
かわしながら、愛想よく笑顔で受け答えしていた 

ジョン・F・ケネディ、マリリン・モンロー、ウィリアム皇太子&キャサリン妃
マイケル・ジャクソン、ウディ・アレン、ジョージ・クルーニー等々
このホテルを利用するゲストは、各界のトップに限られる
そんな特別なゲストだからこそプライバシーは徹底的に守るし、ゲストの要望にも
可能な限り答えるのだ
それだけの対価を支払っているのだから、ある意味当然のことかもしれないが
徹底することはなかなか難しいことだと思う

客がホテルを選ぶことの方が圧倒的に多い今の世に
「客を選ぶ」と堂々公言するカーライル
私にはその公言がホテルの内観にもそのまま出ているように思えた

映画の中ではあちこちの部屋の内観を見ることができるが
歴史を感じるその内観はどれもオリジナリティーがあり、素晴らしかった
社交場の内観などは、明るくて遊び心を持っていて、その空間に居ると
ワクワクしてくる感じがした
そんな部屋でも、別の趣向を持った人が見たら古くて洗練されてない部屋に
感じるかもしれない

この空間を只の古くて洗練されてないものに感じるか?
もう一つの自分の家のように感じるか?そこだけでもう十分に
ホテルが客を選んでいるように思えた