骨と十字架

骨と十字架

作 野木萌葱、演出 小川絵梨子の舞台

どのようなストーリーか?全く前知識がないまま鑑賞した
野木さんの作品を観るのは初めてだったが、「パラドックス定数」での
ご活躍は薄々知っていたし、史実を大枠とした見ごたえある正統派の
社会劇がお得意だとは知っていたので、ようやく観ることができてうれしかった
観劇中は、解決なき問題を必死に解いていたような気分と
観終わってからは、その問題から解放された一種の心地よさと
かなりの疲れを感じた

そして野木さんが社会派劇作家と呼ばれる理由も充分に伝わってくる
作品であった

前知識が無くてもどんな感じのストーリーかは理解できた
私にとって演劇っていうものは、きっちりと理解できないものなので
このくらいの理解度が実は一番心地よいのかもしれない
でもこのストーリーの主役であったフランス人のカトリック司祭であり
古生物学者・地質学者のピエール・テイヤール・ド・シャルダンは
実在した人物なので調べてみた
復習をしたのである

自分自身が一番驚いたのだが、彼を調べてみると読んでいくうちに
演劇内のセリフやシーンが脳裏を回想するのだ
そして実際に観劇した時より理解度が数段増すのがよくわかった
きっとこの後もう一度観劇したらもっともっと面白いのだとわかった

宗教と学術の間に挟まれたテイヤールの苦悩は計り知れないものだったのであろう
彼は学者としても非常にまじめだったみたいで中国、インド、ビルマ、ジャワ
そしてアフリカと熱心に研究に出かける
そしてそこでの発見が、宗教と学術の教えの出発点を乖離させていくのだった

このテイヤールさんの主張した進化論は、宗教的にも科学的にも
受け入れられないものであったようだが、この不条理さも
この人演劇向きだなぁ~と思ってしまった

最後に上演時間であるが、1幕65分、休憩15分を挟み2幕35分と
少し変則的な時間であった
役者さんやセットの関係もあると思うが、私は通しでやったほうが
観やすいと思った

エダニク

エダニク

2009年に横山拓也が書き下ろした作品
それから再演を重ね続け、その後も大変好評な作品であるので
私は是非1度観たいと思っていた作品である

今回この作品を演出したのは鄭義信
彼の仕事で私が知っているものは、映画「岸和田少年愚連隊」の脚本や
最近では映画「焼肉ドラゴン」の脚本、監督などである
どちらも癖と味のある作品である

会場は浅草九劇であった
私は初めての劇場であったが、なかなか雰囲気のある場所にあった
駅からポッピー通りを通り、浅草花やしきのすぐ近くであった
理由は明確ではないが、ここはエダニクを演じるのが似合うと思った

さてタイトルのエダニク(枝肉)であるが、食肉解体加工の過程で
内臓等を取り除いた牛、豚を背骨から2つに切り分けた状態に
したもののことである
そう、この話はある屠場が舞台となっている
食肉解体を仕事にしている2人の男とそこを訪れた招かれざる客の
3人芝居である

キャストは大鶴佐助、中山祐一朗、稲葉友と安定の3人であった
私は大鶴佐助の出演する演劇を何作か観ているが、実に個性的で
そして面白い役者である
役どころが似てきてしまうという弱みもあるのだが、ある意味
お約束の役どころであっても期待以上の演技を見せてくれる
今回も期待していた以上の好演であった

元気よくわかりやすいコメディータッチのストーリーの中には
屠場の持つ特殊性(生き物がここで食肉という商品に変わる)や
職業差別、労働環境などシリアスな問題も見えるのではあるが
社会問題に寄った作品にはしないように考えていた
という鄭義信の言葉通りで、小難しさは全くない

ストーリー展開もテンポよく、観る側をグイグイ引っ張って行く
そして3人のキャストが見事にハマっていた
終始において軽快で、エネルギッシュな劇だった

アート・オブ・サーカス Scalaー夢幻階段

アート・オブ・サーカス Scalaー夢幻階段

薄暗い舞台の真ん中には階段が置かれていた
この階段だが、何処かに到達しているわけではなく
中途で終わっているような中途半端さがあり、私は違和感を感じた
そして舞台右には扉と机と椅子が置かれていた
これだけを見ただけでは、これからどんなパフォーマンスが始まるか
まるで予想できない

ふじのくに⇄せかい演劇祭2019の数々の演目の中で
わたしはこの「Scalaー夢幻階段」に一番興味を持った
私は非常に早くにチケットを予約したので、席を取ることができたが
結構早い段階でチケットは完売となっていた

この「Scalaー夢幻階段」を創作したのはフランス人の
ヨアン・ブルジョワである
彼は、ジャグラー、俳優、ダンサー、演出家と色々な顔を持っている
そんな彼が2010年よりサーカス、コンテンポラリーダンス
そして演劇を融合した独自の作品創作を始めた
そのパフォーマンスが世界的に高く評価され、現在の舞台芸術の
ジャンルの中でも、恐らく彼の作品の属す現代サーカスが
ヨーロッパでは最も人気が高いという

舞台は約90分
登場人物はパフォーマンスだけで、セリフはない
そして無声劇のように伝えるべくストーリーもないように思う
皆ただひたすら前の人と同じような動きを繰り返す
その行動は、まるで川の流れのような永遠さえ感じるし
重力を無視したかのような動きの連続は、どこか快感に思えてさえくる
そうすると中央の階段についても永遠に上り続けられるような気さえしてくる
その光景はずっと見ていても全く飽きることがない

この演劇のタイトルである「Scala(スカラ)」は、イタリア語で
階段の意味も持つという
そして英語で同じ語源を持つ物理学の「スカラー(Scalar)」には
方向性を持たない大きさという意味がある
方向性と大きさの両方を持つものは「ベクトル」と呼ばれる

正に目の前で体験したこのパフォーマンスは、階段(スカラ)が印象的であったし
方向性を持たない「スカラー」の連続であったように思う